3月31日からApple TV+独占で公開された映画『テトリス』を早速視聴しました。
これを見たいがためにXboxGamePass Ultimateの特典、Apple TV+3ヶ月無料化を取っておいたと言っても過言ではありません。
この映画は俗に言われる『テトリス事件』を扱ったもので任天堂がゲームボーイにテトリスを移植したせいでセガはメガドライブ版テトリスが発売できなくなった、などとまことしやかに語られています。
しかし、それは事実ではありません。
結果的にセガはメガドライブ版テトリスを発売できませんでしたが、そもそも、セガが持っていたテトリスの権利はELORGから直接与えられたものではなかった事が原因です。
映画のストーリーはBPS社の社長、ヘンク・ロジャースを主人公に当時開発中だったゲームボーイの新作ソフトを求めていた任天堂(映画に出るのはほぼNOA)がゲームボーイ版テトリスを発売するまでのドラマが映画化されています。
当時は冷戦真っ只中。
西側諸国の人間がよりにもよってソビエト連邦に入国する事がいかに危険であるかは言うまでもありません。
テトリスに社運を賭けていたBPS社のヘンク・ロジャースとゲームボーイに新作を求めた任天堂とは利害が一致し、共同してELORGと直接交渉、テトリスの販売権を獲得します。
同時にいい加減な版権管理を行っていたアンドロメダソフトの権利契約は全て破棄されてしまいました。
テトリス作者のアレクセイ・パジトノフがKGB相手にカーチェイスを繰り広げるなどフィクション部分が多いのは事実なのですが、映画全体を俯瞰すると文字通りテトリスに人生の全てを賭けたヘンクの物語なのは疑いの余地がありません。
ソ連崩壊後、ヘンクはアレクセイと共にテトリスの版権元締めとなる会社、テトリスカンパニー(現テトリスHD)を立ち上げる事になります。
ヘンクの賭けは見事大成功に終わったのです。
短いシーンではありますが当時の任天堂社長、山内溥氏の出番もありました。
演じられたのは伊川東吾氏。
雰囲気めっちゃ出てます!
当時の任天堂の立場は反セガというより反アタリと言った方が適切でしょう。
アタリの子会社テンゲンがNESのセキュリティチップを回避したとして任天堂と係争関係にあったからです。
テトリスの権利を取得した後は、NES版テトリスを販売していたテンゲンを相手に販売差し止め訴訟も行い、最終的にELORGから権利を取得していた任天堂が勝利します。
この裁判結果を受けて、セガはメガドライブ版テトリスの販売を断念しました。
セガが持っていた権利はテンゲンから買っていたからです。
ソフトは既に完成しており倉庫に積まれていたとかで、それらを全部破棄するという大打撃を受けることになってしまいました。
かわいそうな話ではありますがこれもビジネス。
権利関係をきちっとしておくことは重要です
そして現在。
Nintendo Switch Onlineでゲームボーイ版テトリスがプレイできます。
3DSバーチャルコンソールでは早々に配信終了していたため待望の収録でした。
この1画面にはヘンクの挑戦した足跡が全て詰まっています。
ELORGから直接ライセンスを受けているため、当時ELORGから(PC版の)ライセンスを受けていたアンドロメダソフトの名前はありません。
そして、テトリス作者アレクセイ・パジトノフの名前が記されているのが熱い。
当時はソ連が存在していたためアレクセイはテトリスに関する利益を一切受けられずにいました。
せめて名前だけでも、という配慮でしょう。
個人が利益を得られないのは共産主義社会では当たり前の事ですが、ゲームという切り口からそうした事実を学べる映画になったと思います。
余談。
映画本編とは全く関係ない話ですが、セガは30年の時を経て
メガドライブミニを発売、アーケード版テトリスの完全移植を成し遂げました。
細かい違いはあるのかもしれませんが、私から見たら完全移植にしか見えません。
アメブロの仕様で途中再生ができないため、1時間26分40秒くらいから再生してください。
セガの宮崎さん(現:アトラス)は「30年前の忘れ物」と話しておられましたが、当時のセガで開発をされていた方にとってはメガドライブ版テトリスの販売中止は悔しくて仕方ない出来事だっただろうと推察します。
メガドライブミニに収録されたテトリスは完全新作。
販売中止となった当時のメガドライブ版とは別物の完成度を誇っており、こちらも素晴らしいプロダクトだと思います。